共同通信連載企画「障害年金を問う」より

(1)理不尽な返還請求

 初診日の意義でもふれたように、障害年金の請求において、初診日ににどの年金制度に加入しているかによって、支給される年金額に大きな違いが生じてきます。

 しかし、社保庁時代のずさんな情報管理に加え、昨今、職員が入れ替わって素人集団と化してしまった年金機構では、社会保険における初診日についての基本的な知識の欠如によって、申請者に大きな不利益をもたらす決定が公然と行われている現状があります。

理不尽な返還請求

「760万円」通知に翻弄
国が記録ミス、不信感今も

共同通信社配信
(掲載誌は下記参照)

 事務的な文章で年金の返還を求める納入告知書に、容赦なく届く督促状。金額欄には「761万5973円」。大阪府に住む視覚障害の 渡辺尚子 (わたなべ・なおこ) さん(52)=仮名=は、日本年金機構から届いた文書の束を前に、今も怒りが収まらない。

 話は13年前にさかのぼる。渡辺さんは視野が狭くなるなどの目の病気があり、2002年に障害年金を申請。社会保険事務所(現在の年金事務所)の指示通り書類を提出した結果、04年から月約6万6千円(当時)の障害基礎年金2級を受け取ることができた。

 だが、渡辺さんが目の病気で初めて医療機関にかかった「初診日」は、会社勤めをしていたころ。となると、今の支給額に上乗せして障害厚生年金も受け取れるはずだ。知人からそう教えられた渡辺さんは09年に申請したが、却下された。

 不服申し立ての末、11年にようやく主張が認められ、月約2万8千円が上乗せされた。では、02年の最初の申請時に障害厚生年金が認められなかったのはなぜなのか。

 それは会社勤めをしていたときの厚生年金の加入記録が旧社会保険庁のミスで統合されておらず、「宙に浮いた」状態だったためだ。記録を見つけられなかった社保庁は、初診日に架空の日付を設定。本来なら基礎、厚生の両方を支給すべきだったのに、架空の初診日に基づいて障害基礎年金だけにしていた。

 だが渡辺さんが本当に驚いたのは、この後だ。障害厚生年金を受け取れるようになり安心したのもつかの間、「これまで支給された障害基礎年金約760万円は支給されるべきものではなかった」として、社保庁を引き継いだ日本年金機構から返還を求められたのだ。

 ミスをしたのは社保庁だ。渡辺さんに責任はない。そう訴えたが、聞き入れられず、やむなく昨年4月に国を相手に提訴。すると、年金機構は昨年秋になって非を認め、「02年の時点から障害厚生年金が支給されるべきだった」という渡辺さんの主張通り、逆に差額の未支給分約200万円を支払った。

 「なぜ早く誤りを認めてくれなかったのか。あまりにも常識からかけ離れている。自分たちが神様だとでも思っているんでしょうか」。複雑な制度と年金機構の一方的な対応に 翻弄 (ほんろう) された渡辺さんの胸には、拭いがたい不信感が残っている。

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 支給・不支給をめぐる地域差や官民格差など、ずさんな制度運営が次々に判明した国の障害年金。現場の実態を追った。

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 加入制度で変わる種類

 障害年金は、障害の原因となった傷病で初めて医療機関にかかった日(初診日)にどの年金制度に加入していたかによって、支給される種類が変わる。初診日が自営業や無職だった時なら「基礎」、会社員であれば「厚生」、公務員だと「共済」となる。厚生や共済では、障害の重さが1級か2級と判定されれば、基礎と合わせて受け取れる。最も軽い3級の場合、基礎は支給されない。


掲載誌(順不同): 東奥日報(青森県)2015/05/11朝刊〜; 河北新報(宮城県)2015/05/12夕刊〜; 秋田魁新報2015/05/11朝刊〜; 山形新聞2015/05/12朝刊〜; 北國新聞(石川県)2015/05/13朝刊〜; 埼玉新聞2015/05/11朝刊〜; 千葉日報2015/05/12朝刊〜; 四国新聞(香川県)2015/05/11朝刊; 西日本新聞(福岡県) 2015/05/13夕刊〜; 長崎新聞2015/05/11朝刊〜; 熊本日日新聞2015/05/13夕刊〜

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