共同通信連載企画「障害年金を問う」より

(2)「初診日」の壁

 「病歴・就労状況等申立書」の意義についてでも述べましたが、障害年金の申請にあたっては、その障害の程度と同等かそれ以上に、(社会保険における)初診日の決定が大変重要な意味を持ちます。

 ですので、すでにカルテが廃棄されている場合など、初診日を証明が簡単でない場合、初診日を補完的に示す資料や証言などによって、柔軟に判断する運用が過去にもなされてきました。

 しかし、社保庁から日本年金機構になって以降、申請者には酷とも言える機械的、杓子定規な判断を行う例が後を絶たない状態となっています。

「初診日」の壁

病院資料示すも却下
 証拠集め、医師の手帳まで

共同通信社配信
(掲載誌は下記参照)

 障害年金を申請する際、最大のハードルとなるのが、障害の原因となった病気やけがで初めて医療機関の診察を受けた「初診日」の証明だ。

 北関東在住の 松浦進 (まつうら・すすむ) さん(62)は申請から受給が決まるまで1年半もかかった。その間、妻の和子さん(62)は初診日がいつなのかを示す証拠集めに奔走した。

 進さんには視覚障害がある。10年以上前に身体障害者手帳は取得していたが、障害年金の存在は知らなかった。知人に「なぜ受給しないの」と言われ「そんな仕組みがあるんだ」と2013年夏、近くの年金事務所に相談に訪れた。

 「初診日を証明する資料が必要です」と言われたが、東京の病院で、しかも35年前のことだ。カルテはない。だが自宅を探すと、初診の日付が入った検査資料が出てきた。東京まで病院を訪ね、書類も書いてもらった。

 目が見えにくくなっていた進さんに代わり、和子さんが相談のため年金事務所に通うこと、10回近く。可能な限り資料をかき集めて「これなら認めてもらえるだろう」と受給を申請した。

 ところが、2カ月後に届いたのは「初診日が確認できない」という却下の通知。厚生労働省に電話で問い合わせたが「理由は言えない」と言われ、怒りに火が付いた。「うそをついているわけじゃない」

 和子さんは再び証拠集めに走り回る。初診時の医師は既に亡くなっていたが、妻が当時の手帳を探し出してくれた。かつての同僚や上司にも申立書を書いてもらった。

 関東信越厚生局に不服申し立てをしたが、覆らない。くじけそうになったが、年金に詳しい知人にアドバイスをもらいながら書類を書き、14年7月、再審査を請求した。

 今年1月、東京・霞が関の厚労省で審理が開かれ、「病院の検査資料があるなら認めてあげないと」という意見が出て方向性は決まった。やっと4月、障害厚生年金2級の通知が届いた。

 進さんは最近、国家公務員は自己申告で初診日を認めるという「官民格差」があると知り、あきれ返った。「私は運がよかったが、障害年金の申請は『面倒くさいからもういいや』と諦めさせるようになっているんじゃないか」(文中仮名)

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受給に重要な初診日

 障害年金を受け取る上で初診日が重要なのは、その時点の加入先が国民年金、厚生年金、共済年金のいずれかで受給額が変わる上、初診日から逆算して保険料納付要件を審査し、初診日の原則1年6カ月後の状態で障害の等級(重さ)を判定するからだ。日本年金機構は、当時のカルテがなくても診察券や健康診断の結果などを参照して判断するとしているが、内部で徹底されていない。


掲載誌(順不同): 東奥日報(青森県)2015/05/11朝刊〜; 河北新報(宮城県)2015/05/12夕刊〜; 秋田魁新報2015/05/11朝刊〜; 山形新聞2015/05/12朝刊〜; 北國新聞(石川県)2015/05/13朝刊〜; 埼玉新聞2015/05/11朝刊〜; 千葉日報2015/05/12朝刊〜; 四国新聞(香川県)2015/05/11朝刊; 西日本新聞(福岡県) 2015/05/13夕刊〜; 長崎新聞2015/05/11朝刊〜; 熊本日日新聞2015/05/13夕刊〜

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